研究概要 |
本研究で得られた成果は以下のとおりである. 1.乳房正常組織および腫瘍の電気定数に分散性および±10%のランダム性を仮定し,パルス波の散乱特性を検討した.乳房正常組織および腫瘍の電気定数の分散性およびランダム性に影響されずに腫瘍による十分大きな散乱が観測できた. 2.乳房表面を覆う皮膚を考慮した数値シミュレーションでは,乳房正常組織のランダム性と腫瘍の散乱に加え,乳房表面を覆う皮膚による散乱があるため,腫瘍を検出する際に必要となる散乱特性への影響がみられた. 3.損失媒質内に存在する2次元不均質損失物体にマイクロ波領域のパルス波を照射し,観測点における電磁界の時間応答データからその物体の電気定数(誘電率,導電率,透磁率)の空間分布を再構成する像再構成アルゴリズムを開発した.このアルゴリズムはFDTD(Finite-Difference Time-Domain)法を時間の順方向および逆方向に繰り返し適用するのでFBTS(Forward-Backward Time-Stepping)アルゴリズムと名づけた. 4.FBTSアルゴリズムを皮膚,正常組織および腫瘍からなる単純な2次元乳房モデルに適用し,数値シミュレーションを行った.その数値結果から,直径8〜30mm程度までの腫瘍に対して,その大きさおよび位置を明瞭に画像として捉えうることが明らかになった.また,大きさの異なる腫瘍が複数個ある場合も容易にそれらを検出できることが示された. 今後は,FBTSアルゴリズムの耐ノイズ性や安定性をさらに詳しく検討するとともに,実際の3次元形状の乳房内の腫瘍を可視化するためにアルゴリズムの拡張を行う予定である.
|