研究概要 |
本研究で提案している脳磁図(MEG)の三次元ベクトル計測は,同一の部位で同時に磁界の三成分,すなわち,従来の頭表に垂直な磁界成分(法線成分)に加えて,新たに頭表に水平な成分(接線成分)をも測定する方法で,国内外においてもその報告が極めて少ないのが現状である。本研究では,この脳磁図の三次元ベクトル計測に基づいた脳磁界波形の分析により,脳内のニューロン群の活動状態が空間的・時系列的に解析できる脳磁界イメージングの実現を目指して研究を行った。その成果の要約として,信号源推定に関する三次元ベクトル計測の特徴は,接線磁界成分検出用コイルは信号源の直上で最大感度となる検出特性を有するので,その磁界分布には極値となる単峰性パターンが現れることからこの接線磁界成分の利用により信号源の数や方向が読み取れる点にある。特に,複数信号源の場合,従来の法線磁界成分では,双極子分布とはならず複雑になるが,接線成分では上述の特性を有するので接近している複数信号源の分離に有用である。この有用性は,時間的に重畳し空間的に接近している複数信号源に対して特異値分解を利用した推定アルゴリズムの開発と導入によって理論的および体性感覚・聴覚への複合同時刺激による誘発脳磁界実験の双方からも確認された。また,ARモデルやウエーブレット変換を用いた時間・周波数解析アルゴリズムの導入による脳磁図の波形解析の点からは,従来の法線磁界成分の中に含まれていた波形の構成周波数成分が接線磁界成分により独立に分解できることから,信号源を時間的に周波数や強度が変化する発振器と見なすことによって工学的な手法により詳細な検討ができることが示された。本研究で提案された三次元ベクトル計測は脳磁図のみならず心磁図など他の生体磁気信号解析にも有用であることも示唆された。これらの詳細は,本成果報告書の掲載論文を参照されたい。
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