研究概要 |
バイオフィードバックとは,体外に情報経路を人為的に設定し,その情報をもとに学習を行うことによって,意識上と意識下の情報処理過程を連合する営みであるといえる。ただし,その学習活動が脳内のどこでどのようにして行われているかは全く不明であった。本研究の目的は,近年発達の著しい無侵襲脳機能測定装置を用いて脳神経系活動を測定することにより,バイオフィードバックにおける中枢神経系での学習機序を明らかにすることである。そのために,まず,外界からの情報が皮質レベルばかりでなく,深部活動とどのように関わり合っているかを調べるために,複数モダリティにわたる情報過程の統合に伴う脳神経活動を測定した。具体的には視覚と聴覚から同時に刺激を入力し,その組み合わせを弁別する課題における脳神経活動に伴う脳磁気を測定し,脳内活動の時間・空間様式を調べた。その結果,個々のモダリティに固有な処理は刺激入力後約130msまでで,その後頭頂および側頭連合野での活動に推移するが,その間,130〜150msおよび210〜240msにおいて大脳基底核および辺縁系に特徴的な活動が見られた。このことから,脳活動の相変化や高次機能遂行には基底核や辺縁系が重要な役割を果たしていることがわかる。この部分は自律神経の中枢部とも神経連絡があり,この部分が,皮質における意識活動が意識下の活動に関係して学習を成立させるための一つの重要な経路であることを示している。一方,バイオフィードバックにおける学習成立のカギである「気づき」の脳神経機構についても,奥行き多義性をもつランダムドット・ステレオグラムを用いたモデル課題を利用して調べた。同課題遂行中の脳活動をfMRIにより測定した結果,従来の認知の枠組みを打破する際には大脳前頭前野の活動が関与していることが判明した。以上により,バイオフィードバックの機序に関係する脳神経活動の一端が明らかとなった。
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