| 研究概要 |
東南アジア諸国では,急速な都市化,工業化により環境問題が深刻化している.環境問題を解決するためには,その環境を的確に評価することが重要であり,従来の分析化学的手法に加えて,生物学的側面からのアプローチが重要である.そこで,タイおよびマレーシアの河川を対象として,これまでに検討を続けてきた新手法を用いて,河川水中の微生物の現存量,生理活性,群集構造の調査を行った.さらに,微細藻類を用いたbioremediationや魚類由来のバイオマーカーの探索を行った.それにより以下の知見を得た.
1.川幅が狭く水深が数mのケラン川やバンコク市内の運河では,これまでの環境微生物学の常識をくつがえし,培養可能な細菌が過半数を占めていた.一方,川幅が広く水深が深いチャオプラヤ川では日本の河川と同じく,培養可能な細菌は全細菌の10%以下であった.
2.ケラン川,チャオプラヤ川およびバンコク市内の運河における腸内細菌の現存量を測定した.その結果,BacteroidesおよびEscherichia-Shigellaグループの細菌が全細菌の1〜8%を占めており,さらにそれらが高い生理活性を有していることがわかった.従来の培養法ではこれらの細菌は検出できず,各河川環境を衛生微生物学的に評価するためには,FISH法や蛍光ファージアッセイ法等のシングルセルレベルでのアプローチが重要であることがわかった.
3.日本およびタイ産の淡水性藻類から2,4-ジクロロフェノール除去能の高い株を得ることができた.
4.アジア淡水域に広く分布するフナのメタロチオネインが,重金属に対するバイオマーカーとして有用であることが推察された.
5.現地のサンプリングデータを集積し,また現地での研究を支援するために実験環境を整備した.さらに現地研究者に対する実験技術の指導を行ったことにより,今後の共同研究の基盤が確立できた.
|
