研究概要 |
本研究は,エルニーニョによる乾燥とラニーニャによる湿潤が,東南アジア熱帯雨林の群集動態に与える影響明らかにすることを目的としてマレーシアの低地熱帯雨林およびタイ国チェンマイ県の熱帯山地林で実施された.マレーシア低地熱帯雨林の52ha調査区に生育する約35万本,1200種の樹木の生残と死亡を1992,1997,1999年の3回調査した.また,調査区内の1300箇所に4m^2の方形区を設定し,約4万本の稚樹に標識ラベルを取り付け,実生の生残を調べた.エルニーニョとラニーニャが発生した1997-1999には,359965本の樹木うち15798本が死亡した(平均死亡率0.022/年).平常年(1992-1997)の平均死亡率(0.013/年)との比較より,エルニーニョとラニーニャにより死亡率が平常年の70%増となることが示された.ラニーニャ時の地滑り(0.32ha)による死亡樹木の本数(2235本)から,エルニーニョによる死亡率(0.012/年)がラニーニャによる死亡率(0.0064/年)の約2倍となることがわかった.また谷筋に比べ尾根筋で死亡率が高く,死亡率の地形依存性および死亡樹木が作る空間パターンの非ランダム性が明らかとなった.胸高直径が5cm以下の樹木にはエルニーニョによるダイバックが高率(10%)に発生した.サラワク産イリッペナッツの輸出量と気象要因との関係を重回帰分析で解析したところ,最も有意水準の高かった説明変数は月あたり乾燥発生確率の最大値で,乾燥と対応したフタバガキ樹木の種子生産を確認することができた.タイの熱帯山地林では,面積15ヘクタールの調査区設定作業と並行して,森林動態を調べた.サラワクの熱帯低地林とは異なり,エルニーニョおよびラニーニャが樹木の死亡率に与える影響は明確ではなかった.1999年12月には,調査地付近の測候所で異常低温(-3.2C)を記録したが,フタバガキ科の熱帯雨林とは異なり,一斉開花と結実は生じなかった.
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