研究概要 |
本研究は,平成9-10年度に行われ終了した国際学術研究(協同研究)の継続研究である.昨年までの研究において,本研究の研究協力者であるカリフォルニア大学サンディエゴ校Kubiak教授とともに,同教授が開発した高性能電解赤外分光装置を用いて,ルテニウム三核クラスター錯体の架橋二量体の一電子還元体の赤外吸収スペクトルの測定を行った.その結果,異常にブロードなCO伸縮振動スペクトルが観測され,これが「三核クラスターユニット間の混合原子価状態における,ユニット間の分子内高速電子移動が誘起する赤外吸収バンドのコアレッセンス」であることを明らかにした.赤外スペクトルのタイムスケールという極めて速い時間領域における動的化学現象が電磁波吸収スペクトルのコアレッセンスを引き起こしている例は,これまでほとんど知られていなかった. 本研究は上記研究を更に高度に展開することを目指し,相互に研究室を訪問し以下の研究を行った. (1)上記電解赤外分光装置を温度可変測定が可能なように改良して温度可変測定を行った.この系に於ける分子内電子移動速度のの温度依存性はかなり小さいことが明らかとなった. (2)これまでよりも電子供与性高いアザビシクロオクタンを周辺配位子とした三核クラスター錯体の架橋二量体を合成した.その電子移動速度定数はこれまでの中で最も速い1×10^<12>s^<-1>(-18℃)であった.この錯体の還元体が熱的に不安定なため上記の装置による低温測定により測定可能となった. (3)錯体に^<13>COを導入した非等価な二量体について測定を行った.非等価な二量体の一電子還元状態には還元サイトの違いにより2種類の異性体が存在するが,その比率が温度によって変わることを見出した.
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