研究概要 |
本研究はプロテインC(PC)やアンチトロンビン(AT)の変異体と、慢性甲状腺ガンを誘発するチログロブリンの変異体(cog Tg)をモデルタンパク質として、新生タンパク質の品質管理機構において、1.構造異常のタンパク質がどのような分子シャペロンで認識・識別され、2.どのような機構で分解経路へと導かれ、3.どのような分解を受けるかについて明らかにしようとしたもので、以下の成果を得た。 1.BiP,ERp72、GRP94,PDIなどの小胞体分子シャペロンを高発現するCHO細胞に野生型および分泌異常のPC,AT(ΔGlu313とPro429stop),cogTgを共発現させ、分子シャペロン高発現の影響を解析した結果、野生型PC,ATにも細胞内分解が見られた。1)異常PCは、ERp72下では、分解が促進されたのに対して、BiP、PDI下では、逆に遅延した。2)ATのΔGlu313変異体はBiP,ERp72下で分解が促進されたのに対して、Pro429Stop変異体はERp72下でのみ分解が促進された。3)cogTgでは、BiP、GRP94下で分解が抑制され、細胞内に蓄積された。このように、分子シャペロン高発現の影響は、変異体によって様々に異なる結果となった。 2.構造異常な糖タンパク質は小胞体マンノシダーゼI(Man I)によりMan8B型糖鎖になると、これにレクチン様分子が特異的に会合し、分解系へ誘導すると考えられている。Man8B結合性レクチン様分子として、Man IホモログのEdemが有力であり、本研究では、CHO細胞に発現させたcogTgおよび293細胞に発現させたΔGlu313とP429stopの細胞内分解におけるMan IとEdemの影響を調べた。その結果、いずれの変異体においてもMan I特異的阻害剤のキフネンシンの存在下で分解が阻止され、Edemの共発現下で、ΔGlu313とP429stop変異体の分解が促進され、Edemが異常タンパク質を分解系路へ誘導する因子であることが示唆された。 3.上記の変異体の細胞内分解はいずれもプロテアソーム阻害剤の存在下で抑制されたことから、分解にはプロテアソーム系が関与していることが示唆された。
|