研究概要 |
本研究では各種温熱・冷却治療に臨床利用可能な温度分布画像計測の確立を目指した.平成11年度は主に要素技術の開発と評価を行った.基礎実験として前立腺肥大症患者からの摘出組織片を高分解能NMR装置(9.4T)にて観測し,そのスペクトル周波数の温度変化を観測した.この結果,コリン・クレアチン・クエン酸のピークの周波数は温度変化がなく,これらを基準として水のピークの周波数を観測することにより,内部基準を使った温度計測が可能であることがわかった.超高速磁気共鳴分光画像化法(EPSI)の磁場系列をハーバード大学のMRI装置(1.5T)での使用に合わせて最適化した.東海大学で作成したプログラムをネットワークを通じてハーバード大学の磁場系列開発用コンピュータに転送した.シミュレーターによるチェックの後,申請者が当地に赴いて動作試験ならびに実験を行った.エチレングリコールファントムでは,10s程度の撮像時間で20cmx20cmの観測視野を被う32x32ボクセルにおける良質なプロトンスペクトルを得,本磁場系列が所期の動作を達成していることが確認された.本法にて健常ボランティアの前立腺を観測した結果前立腺ならびに近傍組織を特徴づけるスペクトルを得ることができた.また脳腫瘍のレーザー手術において位相画像化法を用いた温度分布画像化を試験する機会を得,レーザーによる加温部位の位置,大きさならびに大体の温度上昇値を可視化した画像を得ることに成功した. 平成12年度は代謝物質を内部基準とした温度分布画像化法をさらに検討した.まず超高速磁気共鳴分光画像化法を線状掃引型(LSEPSI)として,磁場の不均一性に対する耐性を高めた.さらに動物用の3T-MRI用プローブコイルの作製方法に工夫を加えて,コイル特性を改善した.これらの結果,20mMのクエン酸ファントム,10mMのNAA(N-アセチルアスパラ銀酸)ファントムにおいて温度の分布とその時間変化を可視化できる自己参照型の温度分布画像化に成功した.さらにこのLSEPSIにより家兔大脳内部の温度分布を,NAA基準で画像的に計測することができた.脳内のNAA濃度は10mM程度であり,この程度の低濃度の物質であっても内部基準として利用可能なことを世界に先駆けて示した.さらにヒトボランティアにおいて脳内の水-NAA間のプロトン化学シフトを測定し,その値が脳内の場所ならびに個体によって0.05ppm程度のばらつきを有することを見出した.このばらつきは温度に換算して5℃程度の差となるがこのような温度差が生理的状態にある脳では考えられないことから,脳内で絶対温度分布の計測は困難であることが示唆された. 以上より本研究では外部基準法・内部基準を合わせて数多くの重要な所見を得ると共に,臨床温度分布画像化法のための基礎技術開発とその適用方法を確立し,所期の目的を達成することができた.
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