研究概要 |
ストレスから生体を防御し恒常性を保つためには、視床下部-下垂体-副腎(HPA)系が不可欠である。その中心的役割を担っているのはCRHニューロンである。最近ラットPVNにおいてノルアドレナリン(NA)がCRHmRNA発現を強力に刺激することが明らかとされ、脳内NA系によるHPA系調節機構が注目されている。CRHニューロンにはバゾプレッシン(AVP)が共存し、CRHとともにHPA系調節に与っている。しかしながら、NA系がCRHおよびAVP遺伝子転写に及ぼす影響はこれまで明らかでなかった。我々は無麻酔ラットPVN内にNAを注入後、CRHおよびAVPの一次転写産物をin situハイブリッド形成により半定量した。NAはCRH転写を速やかに刺激することが明らかとなった(Itoi K et al.,J.Neurosci 1999)。その立ち上がりは極めて迅速であり、新たな転写因子の合成を伴わないプロセス(例えば転写因子のリン酸化による活性化など)が想定された。現在検討中である。AVP転写に関しては、大細胞領域、小細胞領域の両者者について、それぞれ定量を行ったが、いずれの領域においてもNAによる有意の刺激効果が認められなかった。血中糖質コルチコイドの両遺伝子に及ぼす影響が異なることにより、NAの異なった効果が認められた可能性があり、現在検討中である。また、従来の成果をまとめて総説(井樋、化学と生物 1999)を著した。
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