研究概要 |
南中国では、トリインフルエンザウイルスが直接ヒトへ侵入する現象が続いている。過去2年間の研究により、アジアにおけるインフルエンザウイルスの宿主域変異機構に関して極めて重要な結果が得られた。 1)A型インフルエンザウイルスのヘマグルチニンは宿主細胞膜受容体シアロ糖鎖におけるシアル酸の結合様式(2-3,2-6)やシアル酸分子種(Neu5Ac,Neu5Gc)による宿主依存性の選択を受けつつ、宿主の壁を越える分子進化を遂げる証拠を発見した。即ち、A、B型ウイルスヘマグルチニンの分子進化は、レセプターシアロ糖鎖の配列ではなくて、末端シアル酸の結合様式(2-3,2-6)とシアル酸分子種(N-アセチルノイラミン酸、Neu5Ac;N-グリコリルイラミン酸、Neu5Gc)に対する認識の変化として現れることを見いだした。 2)カモインフルエンザウイルスの標的器官は腸管であり、特に、腸管のクリプト細胞でウイルスの増殖が見られることを見いだした。カモの腸管の粘膜上皮細胞に存在するインフルエンザウイルス受容体のシアル酸結合様式は2-3タイプである。従って、ヒトから分離されるインフルエンザウイルスはカモに感染できない。カモから分離されるインフルエンザウイルスは、Neu5Ac2-3Gal,Neu5Gc2-3Galの両者に結合できる。筆者らは、カモ腸管のクリプト細胞には特異的にNeu5Gc2-3Gal結合を持つシアロ糖鎖(カモインフルエンザウイルスが結合する受容体シアロ糖鎖)が存在することを見いだした。同時にNeu5Gc2-3Galβ1-糖鎖への結合性の獲得には、ヘマグルチニン分子内の2つのアミノ酸置換、Leu226→GlnおよびSer228→Glyが必須であることも明らかにした。そして、ヒトから分離されたウイルスヘマグルチニン内の2つのアミノ酸置換、Leu226→GlnおよびSer228→Glyを人工的に導入したインフルエンザウイルスはカモに感染・増殖できることを明らかにした。 3)本研究では、アジアで分離されたヒト、トリ、ブタインフルエンザウイルスのシアリダーゼ遺伝子の変異とその標的シアロ糖鎖認識との関連についても検討し、トリ由来のウイルスはN-グリコリルノイラミン酸に対する認識が大きいことなどを見いだした。
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