研究概要 |
本研究は「対象知覚に際して,感官は対象に到達したのちに作用するのか,あるいは到達することなしに作用するのか」という問いにジャイナ教認識論の立場から与えられた解釈を明らかにしようとしたものである。ジャイナ教空衣派の学匠プラバーチャンドラ(西暦10世紀頃)の著作『ニャーヤ・クムダ・チャンドラ』を研究全体の基本文献として,研究1年目となる昨年度は,まずその文献自体の読解研究から出発した。その中から明らかにされたもっとも重要な部分は,プラバーチャンドラが「認識作用は認識主体だけでなく,認識対象にも依存している」ことを当該文献の中で主張する点である。この理論はジャイナ教の,あるいはプラバーチャンドラの認識論の見解として,インド哲学史の中で非常に特徴的なポイントである。今年度はこの点を中心にしてインド哲学諸学派の認識論関連文献との照合をすすめ,研究課題である「到達/非到達作用説」との関連を何らかの形でまとめる予定であった。しかし実際には残念ながら関連文献にまで広げた検証には至らず,『ニャーヤ・クムダ・チャンドラ』の関連箇所をチェックするにとどまった。研究成果の発表は年度内には間に合わなかったため,できるだけ早急に行いたい。 また入力したテキストをテキストデータベースとしてネット上で公開することを目指したが,ネットワーク上で利用される各種のコンピュータ基本ソフト(OS)で利用可能な文字コードとローマ字翻字サンスクリット語表記法について,未だ多くの混乱を解消するには至っていない。しかし,この点についてはユニ・コードの採用で解決できる問題だと考えている。またハッカー対策の学内措置として,データを置いている学科サーバの外部からの閲覧が停止されているが,これは文字コードの問題と合わせて学内的に技術的援助を得て解決できた段階で,本研究に関連するテキスト・データベースの公開を実行したい。
|