研究概要 |
近年,視覚呈示された単語の認知に際して,それと類似した他の単語の存在が如何なる影響を及ぼすのかが検討されている.特に欧米諸言語においては,「当該文字列を構成する文字を一文字だけ別の文字に置き換えることによって作成可能である単語」と定義されるneighbors(以下類似語)が,当該単語の認知過程に及ぼす影響について議論がされてきている. 本研究では,NTT日本語データベースシリーズ「日本語の語彙特性」及びMacintosh版岩波広辞苑第四版に基づき,カタカナ表記語の正書法的類似語数,音韻的類似語数を報告した.これらは川上(2000a,2000b)として報告されている. 次にこうした資料に基づく類似語数と,カタカナ2文字組を手がかりとして被験者が産出可能なカタカナ3文字表記語の数とが対応しているのか否かが質問紙調査によって吟味された.被験者は補充すべき文字の位置に応じて3つの群のいずれかにランダムに割り当てられた.UFF条件の被験者は,最後の2文字を手がかりとしてカタカナ3文字表記語を産出することを求められた.FUF条件の被験者は,最初と最後の1文字ずつを手がかりとしてカタカナ3文字表記語を産出することを求められた.FFU条件の被験者は,最初の2文字を手がかりとしてカタカナ3文字表記語を産出することを求められた.実験の結果,類似語数と被験者が産出した単語数との間に有意な相関が認められた.この相関は,実在の辞書である岩波広辞苑第四版と被験者が有する心的辞書との間に対応があることを示していると解釈された. またこうした類似語数がカタカナ表記語の語彙判断過程に及ぼす影響について実験的に吟味された.実験の結果,カタカナ表記語の類似語数は,その認知過程に抑制的な効果を持つことが示された. 以上の2つの研究結果は現在投稿中である.
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