研究概要 |
本研究では,ニホンザル・チンパンジー・ヒトの乳児を対象とした,既知顔認識発達の比較実験を行った. ヒトでは生後10ヶ月までの縦断実験を4名の被験者に行い,チンパンジーは新生児3頭を対象とした生後10ヶ月までの縦断実験を行った,さらにニホンザルでは,人工哺育で飼育された個体2頭,自然哺育で飼育された個体2頭を対象とした,生後6ヶ月までの縦断実験を行った. 各種において,(1)既知顔(母親顔)への好みがいつ頃成立するか,(2)母親顔と平均顔のどちらを好むか,を調べる実験を行った.実験では,いずれの種においても,養育者の顔をもとに,養育者(母親)顔・平均顔・養育者強調顔をCG合成し,それぞれの顔への注視時間を調べた. 実験の結果,ニホンザルではヒトより既知顔成立時期が3倍早いことが判明した.さらに平均顔への好みの強さは,ヒト・チンパンジー・ニホンザルの順であったが,人工哺育のニホンザルは平均顔への好みが高いことが判明した. 以上の実験結果から,顔認識の基盤となる"平均顔"の形成は,種により異なることが判明した.すなわち,顔認識は種による生得的なしばりを受けることが判明した.さらに自然哺育のニホンザルでは小さかった平均顔への好みが,人工哺育のニホンザルで強かった結果は,人工哺育のニホンザルで,自種でない個体の顔学習に圧があることを示唆するものであった.以上の結果は,顔認知発達には,生得的な要因の存在だけではなく,環境要因も重要であることを示唆するものであった.
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