研究概要 |
視覚的な運動の情報は,空間的に狭い範囲に関しての運動情報の抽出である局所的な検出過程と,その局所情報を空間的に広い範囲にわたって比較・統合する相互作用過程という段階的なプロセスを経て処理されると考えられている.運動の対比現象および同化現象は,この相互作用過程の特性のあらわれであると言える.本研究では,対比および同化現象を手がかりとして,この運動情報処理のプロセスの階層性と並列性を知覚心理学的実験により明らかにすることを目的とした.実験では,運動情報の相互作用に関して,(1)空間的にきわめて狭い範囲で生じ,同化現象を引き起こす相互作用,(2)空間的にやや離れた領域間で生じ,運動の対比現象を引き起こす相互作用,そして(3)同じく空間的にやや離れた領域間で生じ,運動の同化現象を引き起こす相互作用,の3種類を仮定し,確率的ランダムドット刺激を用いてそれぞれの相互作用の分離を試みた.その結果,従来運動の対比・同化現象を説明するのに用いられていた運動方向に関して空間的に拮抗した作用を持つ機構のほかに,空間的に非拮抗的な作用を持つ機構が存在することが新たに示された.これは、近年明らかにされた大脳視覚皮質MT野の神経細胞についての生理学的知見ともよい一致を示している.そして,この空間的に拮抗的な機構と非拮抗的な機構の時間周波数特性について考察を行い,ランダムドット運動知覚の相互作用と,それを媒介する二過程の解析を行った.
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