研究概要 |
1.若年者を対象とした実験から得られた成果:言語音のカテゴリー判断に、音響特徴を抽出する処理(低次のレベル)と、それを音韻記憶と照合させる処理(高次のレベル)のどちらが、より重要な役割を果たすのかを検討した。(1)対象:若年者17名(平均29.2歳)。(2)方法:実験刺激と、それに時間的に先行する刺激(先行刺激)を対にして呈示し、先行刺激の性質によって、実験刺激に対する判断がどのように変化するかを測定した。実験刺激は/ba/から/da/に至る刺激連続体。先行刺激は、(a)実験刺激と共通の音響特徴をもつ/ba/,/da/、(b)実験刺激と共通の音響特徴をもつ/pa/,/ta/、(c)実験刺激の母音部分に相当する/a/、であった。(3)結果と考察:実験刺激と共通の音響特徴をもつ先行刺激は、/ba/か/da/かの判断境界を変化させ、判断の精度を低下させた。その傾向は、実験刺激と先行刺激の間隔が短い時に顕著であった。以上は、音響特徴に基づいた判断の比重が増すと、/ba/か/da/かの判断が、カテゴリー的でなくなることを示していた。言語音のカテゴリー判断の成立により重要な働きをするのは高次のレベルの処理であることが示唆された。 2.老年者(脳損傷例を含む)を対象とした研究から得られた成果:言語音のカテゴリー判断を低下させる要因が何かを検討した。(1)対象:健常老年者14名(平均60.7歳)と左半球損傷の失語症14例(平均55.1歳)。(2)方法:/ba/から/wa/に至る10種類の合成音声を呈示し、/ba/か/wa/かの判断を求めた。(3)結果と考察:失語症例のカテゴリー判断の精度は、健常老年者のそれよりも低かった。カテゴリー判断の障害は、Wernicke領野の損傷で生じた。言語音のカテゴリー判断には、Wernicke領野の音韻記憶に基づいた処理が重要であることが示された。
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