研究概要 |
視覚的補完(visual completion)は、不完全な情報から視覚世界を再構成する視覚の処理過程を理解する上で、極めて重要な現象である。視覚的補完の一種として、視覚的ファントム(visual phantom)とステレオキャプチャ(stereo capture)が知られているが、両者の相互作用はこれまでほとんど検討されて来なかった。しかしながら、両者は(1)主観的輪郭(subjective contour)の生成と充填(filling-in)を伴い、(2)図地分離に関連した立体視を伴う、という点で類似性が高いと思われる。異なる点として、今回の研究で視覚的ファントムが透明視(transparency)との関係が強く疑われることを見出し(Kitaoka et al.,in submission)、ステレオキャプチャでは遮蔽視(occlusion)との関連が指摘されている(Vallortigara and Bressan,1994)こととの関連性に注目している。 視覚的ファントムは、Tynan and Sekuler(1975)によって運動視依存のモーダルな視覚的補完として知られるようになったが、Gyoba(1983)は運動は必須ではなく、静止像でも知覚できることを発見した。静止ファントムは暗所視で強く、明るさの誘導は誘導刺激に対して逆相(counterphase)であった。ところが、今回の研究で我々は「明所視(静止)ファントム」を発見した(Kitaoka et al.,1999)。明所視ファントムの明るさ誘導は、誘導刺激に対して同相(in phase)であった。これに関連して、ネオン色拡散もファントムの一種であると考えるに足る証拠を得た(Kitaoka et al.,in press<Vision Research>)。そのほか、Petter効果とファントムの空間周波数特性との密接な関係も発見した (Kitaoka et al.,in press<Perception>) ステレオキャプチャについては、その基礎となる壁紙錯視で異方性を発見した。エッジとretinal correspondenceの対応が一致しない場合は、最初は壁紙はエッジによる対応を取るが、時間とともにretinal correspondenceの対応にシフトする(depth shift)。このdepth shiftがfarからnear方向に限って起こることを発見し、解析を進めている。現在のところ、視覚的ファントムにはそのような異方性は見つかっていない。
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