研究概要 |
本研究の目的は,知的障害者のバランス障害の特徴を解明して,その支援方法を考案することである.本年度は,知的障害者のバランス障害の特徴を歩行解析の手段を用いて解明するとともに,バランス障害の支援方法を考案した. 知的障害者に対して基本的なバランス運動である歩行の測定を行い,その特徴を解析した結果,自閉症を有する知的障害者とダウン症を有する知的障害者とで,その特徴がかなり異なることがわかった.自閉症者は歩行それ自体に著しい問題はないのだが,指示に従った歩行の調節が難しく(例えば,速く歩く,ゆっくり歩くなど),一方,ダウン症者は指示に従って歩くことはさほど問題はないが,一般にどの歩行も小刻み歩行であった.自閉症者の問題は一般に知的障害が重度の者でもよく見られる特徴であるが,自閉症者の場合は,知的発達水準がさほど低くなくてもこのような現象が生じた 結果から,自閉症者では文脈に応じた運動を実行する心理機能の問題が,ダウン症者では安定して歩行するための基礎的な運動能力の問題が示唆された.このような歩行障害やバランス障害の支援方法として以下のことが考えられた.自閉症者に対しては,言葉がけだけの指示では行為の調節が難しい場合,支援者がなすべき運動を実際に示して見せたり,あるいは行う運動に具体的な意味を付与して(例えばゆっくり歩く場合に水の入ったコップを持たせたりなど)運動を遂行させるといった支援方法が考えられた.一方,ダウン症者については,運動能力自体の発達を促すため,運動経験を増加させるような取り組みが考えられた.
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