阪神・淡路大震災における災害救援ボランティア活動を主な対象として、体験者の手記、記録類、および、新聞記事等のメディアを中心とする、談話的実践の内容分析を行った。この分析により、談話的実践を通して、ボランティア、NGO等々の概念が社会的に構成される過程を追跡することができた。ボランティアという個別の活動は、その社会的な意味の次元に定位してみれば、新たな公共性を日本社会において樹立しようとする試みであると位置づけることができる。ボランティアという名辞が幅広く普及し、多くの人々によって受容されたことは、企業体や行政体に依存する、在来型の公共性とは異なる、新たな公共的空間が成立しつつあることを示す。しかし同時に、内容分析の結果は、この新たな公共性が、未規定性をその最大の特徴としていることを示している。すなわち、ボランティアによって象徴される新たな公共性は、その内容が曖昧なままで明確に規定されず、事後的な任意の意味づけに開かれていることを、最大の特徴としている。たとえば、ボランティアに参加した個々人は、一般的には、その活動の動因を、善意によって、事後的に動機づけている。しかし、活動に参加するに至った局面に着目すると、何か新しい活動に従事したかった、居ても立ってもいられなかった、などといった、動機の未規定性だけが、そこでの共通項となっている。端的に言うと、具体的な理念ではなく、規定されることのない、問題意識あるいは社会参加の意欲だけが、ボランティアを結び付けている。日本社会において樹立されつつある新たな公共性は、このような未規定性によって特徴づけられる。ボランティアに基づく公共性が、企業体、行政体に準拠した既存の公共意識に、どの程度馴致され回収されるのか、他方、この新たな公共性が、従来型の社会組織に対してどのような変化を及ぼすのか、それがわれわれの新たな探索課題となる。
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