研究概要 |
新聞報道およびネットニュースを題材として,普及期以降の携帯電話使用を巡る迷惑に関する言説を分析した. ネットニュースの分析結果は以下の通りである.(1)1997年のピーク時以降,記事数の減少とスレッド数の増加が見られ,この時期に論点が明確化したことが示された.(2)何が迷惑なのか,という論点は,初期は音であったが,1996年から97年にかけて電磁波が中心となり,1999年以降はふたたび音が問題となっていた.(3)誰が問題を解決すべきか,という対処主体は,音の問題では,初期の鉄道会社から個人へという変化が見られ,電磁波問題では,個人から端末やペースメーカー製造業者へという逆方向の変化が見られた. 新聞報道については,公共の場での使用問題の推移を検討するほかに,運転時の使用,病院内での使用など他の問題との比較を行った.結果は以下の通りである.(1)報道量および論調の推移は,ネットニュースでの議論の推移とおおむね対応しており,文字数指標と記事数指標に大きな違いは見られなかった.(2)報道がピークを迎えて収束するまでの期間は,問題の性質が曖昧であり,対処主体が不明瞭であるほど長引く傾向がみられた.(3)1998年にすべての問題の報道量がいったん収束し,公共の場での使用の問題のみがその後再増加していた. 本研究の結果から,携帯電話という新奇なメディアが社会に喚起した問題はいくつかあるが,それらが社会野中で共有されていく過程には問題の種類による違いがみられることが示された.また,曖昧な性質の問題であっても,社会がそれに対処するには,明確な理由となりうる意味付けが必要であり,ペースメーカー問題がその機能を果たしている可能性が示唆された.さらに,1998年の報道・議論量の減少は,携帯電話の主要機能が音声通信からデータ通信へと移行したことと関連するものと考察された.
|