戦後の日本において最も人口移動が激しかった昭和35年は地方から大量の中卒者が都会へ流出していった。そして、現在、その世代の人達が定年退職期を迎え、「老後移住」という形で新たな人口移動が始まりつつあると思われる。そこで、今後の老後移住について考えるために、まず英国の老後移住の実態を調べ(平成11年度)、田園生活に憧れるライフスタイルが、生き方の目指すべき方向であることを見出した。 翻って、日本(高知県池川町)の過疎地域を考えた場合、常に都市との対比によって、田舎はネガティブなイメージを持たされる。その上、社会的条件不利地域であるため、従来、人口流出はみてみたものの、人口流入がほとんどなかった地域である。しかし、環境問題や癒しに関心が集まる今日、離村者の中で帰郷することに自分の生き方を見出そうとしている人々がいるのではないかと考えた。そこで、昭和35年池川中学校卒業者名簿を手がかりに、現住所を把握している約80名ヘアンケート調査を実施し、老後移住についての意識を分析し、さらに移住に関する福祉志向要因の抽出を試みた(平成12年度)。 いくつかの知見を報告すると、離村者の故郷観は「年々故郷が恋しくなり、帰りたいと思うようになる」。しかし、「現実を考えると簡単には帰ることができず」、その要因は「配偶者が同郷でないこと」が第一である。帰郷に際し「社会福祉の整備については無関心」であるが、「在宅福祉」よりも「施設整備」に関心がある。さらに、「帰郷者にとってムラ意識が弊害になっている」と考えている。つまり、社会福祉の整備よりも、地域の受け入れ体制、あるいは近隣者の帰郷者へのまなざし如何が、老後移住の要因になっているのではないかと思われる。 詳細なデータ分析は、今後も継続して行う必要がある。今回取り組んだ量的データの結果に加えて、インタヴューによる質的データ収集も実施していかねばならないと考えている。
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