研究課題/領域番号 |
11710204
|
研究種目 |
奨励研究(A)
|
配分区分 | 補助金 |
研究分野 |
西洋史
|
研究機関 | 弘前学院大学 |
研究代表者 |
森田 猛 弘前学院大学, 文学部, 助教授 (60254744)
|
研究期間 (年度) |
1999 – 2000
|
研究課題ステータス |
完了 (2000年度)
|
配分額 *注記 |
2,400千円 (直接経費: 2,400千円)
2000年度: 900千円 (直接経費: 900千円)
1999年度: 1,500千円 (直接経費: 1,500千円)
|
キーワード | ブルクハルト / 歴史教育 / ランケ / 文化史 |
研究概要 |
昨年度の成果(歴史研究にかんする調査)をふまえ、ブルクハルト史学の構造分析を歴史教育の観点から行った。その際まず、歴史的知がもつ教育的価値をブルクハルトの史学思想のなかに位置付け、その結果を手がかりとして分析を進めた。この作業により、つぎの三点が明らかとなった。第一に、歴史の教育的価値は、ブルクハルトがもつ歴史・自然二元論的発想に基礎をおくこと。そこにおいて歴史は、人間固有の形成物であり、個と全体の関係、生成過程など、多くの点で自然とは性格を異にするものとされる。これは19世紀に勃興した一元論的世界観とは、対照的な見方である。さらに、ブルクハルトは歴史と人間の密接な相互関係性を考えていた。すなわち歴史は人間によって形成されると同時に、その形成物を通して人間を形成するものであり、歴史は本来的に人間形成=教育的価値をもつものとして捉えられているのである。第二に、歴史の教育的価値を意識化した歴史教育をブルクハルトが構想した理由は、19世紀ヨーロッパの社会変動がもたらした歴史の教育力喪失に求められること。ブルクハルトによれば、同時代([革命時代」)の恒常的な社会変革は、伝統的価値の風化をもたらし、歴史的形成物の生形成力を低下させた。また、科学としての歴史学の成立は、歴史的知の生活世界における教育機能をむしろ阻害した。このように社会が歴史を内的に喪失しつつある同時代をブルクハルトは「野蛮」の到来と考える。第三に、ブルクハルト史学は歴史の教育機能を再興し、ヨーロッパの野蛮化に抗すべく構築されたが、それがランケの「普遍史」構想を後継するものであったこと。ランケの「普遍史」は、中世以来の世界年代記の流れを汲み、二権論に立つ全体像の提示とそれによる歴史的自己認識機能を特徴としていた。ここに歴史の教育力が担保されていたが、これは歴史学の科学化過程で、史料批判に基づく実証研究との間に矛盾点を抱えるようになる。ブルクハルト史学は、歴史を類型的に把握する方法を採用し、その歴史像において国家・宗教の二権力に「文化」という第三の力を加える(三つのポテンツ説)構造をとっている。ここに、詳細な事実認識によって喪失しつつあるヨーロッパ的な、すなわち精神的自由を重視する歴史の自己認識機能(教育機能)を確保するねらいを読み取ることができる。以上のことから、ブルクハルト史学は、歴史学の科学化時代におけるランケ史学の一支流として位置付けることが可能である。
|