昨年発表されたChomsky1999をLeft Branchに関する理論構築の際に考慮する為、最終的な理論完成を来年度に延期することにした。よって、本年度は言語習得(第二言語習得)の面からLeft Branchを扱い、主たる成果は以下の通りである。 英語を外国語として学習してきた日本人大学生(被験者:約200名)はTOEFL(Test of English as a Foreign Language)において400点台のレベルの場合、次のような英文を文法的であると判断し、英語での自由討論の際にも使用する。 (1) Whose did you meet friend? (cf.Whose mother did you meet?) (2)How many did you buy books? (cf.How many books did you buy?) 一方、TOEFLにおいて500点台の英語力を持つ学生はこれらを正しく非文であると判断する。つまり、初級(・中級初期)においては、Left Branchの違反を許してしまうのである。この結果は、第二言語が初期のレベルにおいては第一言語の性格を持つという仮説(Schwartz and Sprouse 1996)にとって問題になるようにみえる。というのも、日本語では、名詞句の中から句を抜き出すことはできないため、(1)/(2)の文は初級のレベルにおいても(日本語の文法を使って)非文と見なされると考えうるからである。 しかしながら、本研究ではLeft Branchの違反も第一言語の性質から導き出されると主張する。上記の結果を日英語における名詞句の句構造の違いから導く。Fukui1986を基本的に採用し、英語の名詞句はDPであり、日本語ではNPであると仮定する。更に、Corver1990によると、Left Branchの違反はDPの存在によって引き起こされる。初級のレベルにおける英語の名詞句の構造が日本語からの影響で依然NPであるとすると、(1)/(2)においてWhose/How manyはNPから抜き出されていることになり、Left Branchの違反を許すことが正しく予測される。一方、中級のレベルでは、英語の名詞句の構造を習得し、(常に)DPになる為、Left Branchの違反は許されないことになる。 この分析が正しいとすると、(初級のレベルにおける)属格の付与並び「移動」の誘引などに関する興味深い帰結が導き出されるとともに、Left Branchの違反がSchwartz and Sprouse1996にとって問題にはならないことを意味している。
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