今年度は、ドイツ「国際共同体」理論の批判的検討に向けて2つの大きな柱に沿った研究を行った。第1の柱は、ドイツ国際法に関する文献内容を検討することにより、論者により様々に主張される「国際共同体」理論の内実を明らかにし、その整理を行うというものである。第2の柱は、国連安保理の活動の展開をフォローし、特に「国際共同体」理論において執行機能とみなされている国連憲章第7章に基づく行動の最近の動向を体系的に整理することであった。 第1の柱については、ドイツの国際法学者を中心に行われている「国際共同体」理論に関する研究業績の収集とその内容理解・咀嚼に努めた。その結果として明らかにされたことは、「国際共同体」理論においては国際社会における法規範の性格付けに特有のものがあるということである。従来、強行規範や国際犯罪概念が国際社会の性質の展開を表す規範的概念ととらえられてきたが、「共同体」の根幹に関わる規則を特にカテゴライズする傾向がこの理論の主唱者に共通のものとなっている。この点を別の角度から指摘して、「国連国際法委員会における「国家の国際犯罪」概念の取扱いについて」(国際協力論集第7巻1号)を公表した。 第2の柱について次のような新たな知見を得た。すなわち、1995年以降、安保理の実行において多国籍軍を中心とした憲章第7章の行動が増加しているとともに、その活動内容が法執行という性質を有するというよりも、人道的活動の軍事的支援や国際機関の要員警護、治安維持活動など従来のPKOが行っていたような役割を演じるようになっているということである。この点は、その一部が「中央アフリカ共和国と国際連合ーMISABからMINURCAへー」(国際協力論集第7巻2号)で公表され、続いて「アルバニア多国籍保護軍について」(国際協力論集第8巻1号)でも明らかにされる予定である。
|