今年度の研究によって、国連による開発援助がシステムとしてヴェトナムにおいても確立されつつあることが確認できた。専門機関をも含めた共同での問題分析(Common Country Assessment:CCA)によって、開発の隘路に対する分析がなされ、その結果を基に国連システムとしての取り組み、すなわち国連開発援助枠組み(United Nations Development Assistance Framework:UNDAF)が作成されている。各国連機関はこのUNDAFに基づいて自らのプログラムを作成するが、本研究で特に取り上げている国連開発計画(UNDP)の場合には、国別協力枠組み(Country Cooperation Framework:CCF)を作成してその取り組みを明確にしている。CCFは2度作成されているが、第1次CCFと比べると第2次CCFは、よりガヴァナンスに特化した内容へと変容し、意志決定の分権化と現地における参加に重点が置かれている。特にジェンダーと環境への視点が強まっている。 今年度はQuang Tri省での取り組みを通じて「貧困問題」の分析に努めた。UNDPと連携協力を行っているオランダのSNVというNGOを通して現地でのUNDPの取り組みを観察したが、Quang Tri省でもジェンダーを大きく取り上げ、女性連合と協力して特に少数民族の女性達の所得向上プロジェクトを推進している。しかしながら、現時点での研究から言えることは、プロジェクトレベルでは「人間開発」の視点が十分に活かされてはおらず、貧困問題に対して所得の観点からのアプローチのみが行われており、「力の剥奪」状況を改善する方策を所得向上という視点からしか目指していないと言える。このことはガヴァナンスの問題にも通じ、すべての人々の参加を通じた形でのガヴァナンスの改善には至っていない事が確認できた。
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