研究概要 |
A.K.Senの「パレート・リベラル・パラドックス」は、帰結主義的に定式化された個人の自由主義的権利域を社会選択対応が配慮するとき,それはパレート原理を満たさないことを示す不可能性定理であった。他方,個人の自由主義的権利は、それが帰結主義的に定式化された場合、「選択の自由権」を適切に表現できないとの批判を下に、権利のゲーム形式的定式化の議輪がガートナー・パタナイク・鈴村らによって展開されてきた。これらの先行研究を受け継ぎ、本研究では,自由主義的権利がゲーム形式的に定式化される場合,社会的選択はパレート原理と両立する可能性がある事を確認している。つまり権利体系を体現するゲーム形式の定める非協力ゲームの下で、個々人が各自の権利を行使した結果達成されるナッシュ均衡帰結の集合には、必ずパレート効率的帰結が存在するというものである。この結果、「パレート・リベラル・パラドックス」問題は、権利がゲーム形式的に定式化される限り、事実上解消されたと見て良い。また、自由主義的権利配分の社会的意思決定メカニズムについても、以下の様な理論的成果を得た。すなわち、パタナイク・鈴村らの拡張された社会厚生関数アブローチを発展きせたフレームワークを呈示し、権利配分の社会的選択プロセスがパレート原理と非独裁制という民主主義的要請を満たしつつ,選択された権利配分が自由主義的性格を有するための必要・十分条件の証明に成功した。また、パタナイク・鈴村では明示的に考察されなかった権利配分の社会的選択の整合性問題を定式化し,その解決のための必要・十分条件も明らかにした。これらの成果はまだ論文としてまとめられてはいないものの、Senの「パレート・リベラル・パラドックス」以来の、自由主義的権利の配分と公共政策のパレート効率性という観点での帰結主義的基準との相克性に関連する主要な課題は、ほぼ解決の見通しが立つに到った。
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