研究概要 |
本研究は、持続可能な発展と共有地の悲劇のそれぞれを考察することを課題とした。 1)持続可能な発展に関して、消費が環境負荷を与える(ゴミ問題のある)経済での最適経路を、Aghion and Howitt(1998,5章)を基礎とする内生的成長モデルによって検討した。環境の保全あるいは改善をともなう持続経路の実現には、生産が環境負荷を与えるモデルと同様に、消費の異時点間代替弾力性(以下、IES)の逆数が1以上でなければならない。加えて、(1)人的資本の限界生産性その他のパラメータとの関係において、自然の自浄能力は十分に高いか、あるいはIESの逆数がある上限を超えてはならない、(2)リサイクル技術改善および自然の自浄能力を維持するために必要な労働投入量がある水準以下にとどまる必要がある、ということが明らかとなった。以上の結果は、直観的には明らかかもしれないが、理論分析としては新しい結果である。またリサイクル技術へのR&D、自然の自浄能力と経済成長率との関係は、持続可能な発展を実現する上で重要な含意を有すると考える。 2)共有地の悲劇に関しては、一状態変数の微分ゲームを用いて、各プレーヤーの部分ゲーム完全均衡戦略が、一意かつ効率的トラジェクトリをもつことになる政策を考察した。この政策は、あたかも"自然状態"から貨幣経済への移行をもたらすようなものである。政策が機能するには、政策の信頼性が必要である。現実の環境問題において信頼性が保証されるケースを論じた。また、政策はそれを行う政府にとってはopen-loop strategyであり、政府は部分ゲーム完全性を満たさないことを指摘した。なお、分析に用いられたモデルは資源の外部性を含まない。外部性を含むケースでは、政策はプレーヤー間の戦略的依存関係を消し去ることができず、また非凸性の問題が現れる。このケースの考察は、今後に残された課題となった。
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