研究概要 |
2000(平成12)年度においては,まず,1900年代以降における近代製糸業の発達を先導した製糸企業を素材とした分析を完成させた.近代製糸業の発達を主導した諏訪郡の製糸業は,1890年代半ばまでにおいては,共同再繰およぼ共同出荷によって製品の均一性を高め,対アメリカ輸出を拡大してきた.しかし,力織機の高速化を中心に,アメリカの絹織物業における技術革新が進行した結果,1890年代後半には,従来よりさらに均一性の高い生糸が原料として求められるようになり,アメリカ市場における日本糸占有率の伸びは停滞した.こうした変化に対して,諏訪郡の主要な製糸家は,繰糸から再繰までを単独の大規模製糸工場において一貫して行う生産組織に移行し,また,情報の非対称性を克服すべく,独自の商標によるブランドの確立,品質プレミアムの獲得に努めた.その結果,日本糸占有率は1900年代に入ると拡大し,日本の近代製糸業とアメリカの絹織物業とは再び,補完的な発達を加速した.こうした近代製糸業の再編過程を,代表的な製糸会社である合資岡谷製糸会社の経営を素材として解明した.また,研究計画に従い,日本およびアメリカの価格データを整備し,産業の再編が景気循環と密接に関わっていたことも明らかにした.また,研究計画にしたがい,中小規模の製糸家についても分析を進めた.中小規模の製糸家から成る共同再繰結社の多くは,1890年代半ば以降における再編に対応することができなかった.その原因は,再繰結社としての発展じたいに包含されていた.中小製糸家から成る再繰結社の場合,技術水準が低く,しかも短期間に組織から離脱する製糸家の製品が出荷量の相当程度を占めており,そのために,商標の信認を確立することができず,発達が遅れたのである.さらに,労働市場における取引制度として,製糸家間の工女取引を統治した諏訪製糸同盟の工女登録制度についても,分析を完成させた.
|