研究概要 |
1,今年度の研究は、住宅供給と都市政策との関連について個別の都市の実証を踏まえ検討することであった。対象とする都市は東京市と名古屋市の予定であったが、住宅政策の実態を解明できる資料が川崎市で発見され研究の深化に必要であったため、研究対象に川崎市を加えた。以下、研究実績は大きく二点に分けてまとめられる。 2,第一に、都市公共団体自らによる住宅供給の役割について、住宅を実際に需要する階層との関連で検討した。戦間期の住宅政策の中心となる、持家を建設するための住宅組合、市営住宅、単身者向けの社会館について実際の利用階層をみると、中間層向けの住宅政策と考えられた住宅組合については、重工業大経営の労働者が居住する都市においては、社員だけでなく年収100円前後の職工層も認可申請を行っていたこと、逆に階層的には下層の利用者の多い社会館は当初の意図通り利用されない問題が生じたことが明らかになった。重工業大経営労働者の住宅組合への関心は、当該期の企業内福利施設の特徴--社宅の未整備--とも関連があった。 3,第二に、都市公共団体が住宅政策を必要と考えた論理についてである。米騒動後に実施された社会事業は都市下層社会を主たる対象としたものであったが、住宅政策には社会事業一般に解消できない都市公共団体の意図がこめられていた。一つは市営住宅建設による家主の利害に反する家賃値下げの意図、もう一つは、都市の自治の担い手と当該期に想定された俸給生活者の市域への引き止め策としての意図である。明治期(あるいは前近代)からの有力資産家の利害を伴った住宅供給に対し、住宅政策という労働者の生活レベルの政策を通じて上層職工を含めた新中間層を市行政の社会的基盤に位置付けようとした点、しかしそのような政策は同時に限界(政策としての規模の小ささ)を抱えていた点を、住宅政策からみた当該期の都市政策の特徴としてまとめておきたい。
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