研究概要 |
本研究では,主として日本企業を対象として,技術的知識の創造と実用化との間のギャップについて検討し,そのギャップを埋めるための技術実用化の組織・戦略・マネジメントについて考察した。本研究では,まず日本企業の近年の研究開発投資額,研究本務者数,特許の登録数,及び売上高成長率,営業利益成長率の間の関係を分析し,研究開発投資額・研究本務者数の増加と特許登録数の増加との間に高い相関が見られる一方で,特許登録数の増加と売上成長率・営業利益成長率との間では一部の産業を除いて有意な相関が見られないことを明らかにした。そして,こうした現象が,企業の生み出す技術的知識の埋没(特許の未利用)に密接に関係があることを示した。日本の主要企業へのインタビュー調査では,現状において少なくとも15〜20%以上の保有特許が未利用のまま埋没していることが明らかとなった。このような準備の上に,本研究では,さらに企業が技術から利益を生み出すための組織と戦略,マネジメントについて検討した。技術の商業化プロセスを考える上で,技術を企業内で製品・サービス開発へと展開していく技術事業化と,技術を特許として売却・ライセンス供与していく技術商品化の二つのアプローチが重要であり,これら両者に関する事例研究を行った。前者については,キャノンのインクジェット技術の事業化プロセスとTOTOのハイドロテクト技術の事業化プロセスを取り上げた。これら技術の実用化の成功に共通しているのは,新技術を迅速かつ頻繁に多様な製品に落とし込み,あるいは外部に開示することで技術の応用・展開可能性を理解しようとする「実験的」なアプローチであった。また,後者については,マツダや日立,宇部興産などからの中小企業への技術移転の事例が検討された。これらの事例からは,技術のライセンシングなど技術の商品化においては移転元企業の密接なかかわりが重要な役割を果たすことが確認されたと同時に,技術に対する見方は多様であり,技術が当初想定されていた方向とは異なる方向で実用化されることが多いことが明らかとなった。企業が技術商品化を積極的に展開するほど,技術の新しい価値が見出され,結果として自社内での技術の事業化が促されるというように,技術の商品化と実用化とは密接にかかわりがあることが示唆された。
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