研究概要 |
本研究では,複素3次元Calabi-Yau多様体上の正則曲線の数え上げ問題とその母関数について以下の成果を得た. 一般に,正則曲線の数え上げ母関数はholomorphic anomaly equationと呼ばれる漸化式を満たすという予想がCecotti,Bershadsky,Vafa,Ooguriによって提唱されているが,本研究では,K3曲面や有理楕円曲面がCalabi-Yau多様体の因子として含まれる場合に,これらの曲面に着目すると数え上げ母関数が準モジュラー不変性を持ち,さらに特徴的な漸化式を満たすことを見出した.ここで,準モジュラー不変性はこれらのピカール格子に由来するもので,特にピカール格子がE_8格子を含むような(genericな)場合について,アファインE_8ワイル群の対称性を用いて母関数の構造を調べ,レベルが小さいときに具体的な表式が得られた. また,正則曲線の数え上げ母関数は,連接層(D-brane)のモジュライ空間のオイラー数などと関係することが予想されているが,その数学的な正当化に向けて,幾らかの試みを行ったがこれは完成の途上にある. 正則曲線の数え上げ母関数は,Calabi-Yau多様体の周期積分を与える多変数超幾何級数を用いて具体的に書き表すことが出来る(ミラー対称性).この多変数超幾何級数のモノドロミーを連接層(D-brane)の幾何学に翻訳できると言う予想(ホモロジー論的ミラー対称性)があり,幾らかの肯定的な例を調べた.そして,トーリック多様体内の超曲面の場合に,多変数超幾何級数と連接層(D-brane)の幾何学を結びつける具体的な一般式が得られ,これを予想として提唱した.
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