研究概要 |
集積期の火星熱史について現実的な微惑星サイズ分布を与えた数値シミュレーションを行うと同時に,火星CO_2大気-極冠システムの安定性解析を行った. 熱史の数値シミュレーションから得られた結果は以下の通りである. 1)火星半径が約3000kmに達すると微惑星衝突点の融解が起こり始める. 2)融解開始後,半径がさらに300km成長するまで,サイズの大きな微惑星のみが融解に寄与する. 以上の結果は,火星の大気,マントル,金属核の分化が集積過程の末期に起こり始めることを意味する. 火星において実現し得る大気状態を明らかにするには,大気-極冠システムの安定性の解析が必要である.そのために大気-極冠間の質量交換を考慮した2次元エネルギーバランスモデルを構築した.このモデルは,与えられた日射の緯度分布に対し,大気-地表システムのエネルギー・質量バランスの南北・鉛直構造を解くものである.そこにはCO_2大気の温室効果,緯度間の熱輸送,地表-大気間の熱およびCO_2交換(極冠における凝縮,蒸発)過程が組み込まれている. このモデルを用いた安定性解析の結果を以下に説明する.大気-極冠システムが長期的な定常状態にあるためには,火星年で積分したCO_2凝結量と蒸発量が釣り合った状態になければならない.それには,大気圧が低く大部分のCO_2が極冠に凝結した"冷たい"定常状態と,極冠が完全に蒸発し大気圧が高い"熱い"定常状態,そしてこれらの中間の状態がありうる.中間状態は不安定であり,仮にこの状態から出発しても数十年で"冷たい"ないしは"熱い"定常状態に遷移する.宇宙空間への大気散逸などによって大気-極冠システムのCO_2量がある臨界量を下回ると,"冷たい"定常状態しか実現されなくなる.この臨界量は大気圧に換算しておよそ0.1-1気圧のオーダーであり,太陽定数,軌道要素,地表のアルベド分布に強く依存する.
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