研究概要 |
核子あたりの入射エネルギーが数十から数百MeVのエネルギー領域での核衝突を反対称化分子動力学(AMD)を用いて計算し,中性子過剰核物質の状態方程式決定を目標にして,アイソスピンの非対称性に着目した研究を行った. ^<197>Au+^<197>Au衝突は,安定核同士の衝突であるが,3:2の中性子陽子比をもつため,アイソスピンの効果が期待される.前年度に,^3Heと^3Hのエネルギー差が圧縮時から膨張時におけるアイソスピンの動力学を反映していることを示したが,いっそう確実な結論を得るためには,これらの軽いクラスターの生成を精度よく,かつ,曖昧さなく記述する必要がある.そこで,AMDにおいて軽いクラスターの直接生成(コアレッセンス)を取り扱うための従来の拡張を改良し,曖昧さの少ない枠組みとした.その結果,新しい取り扱いでも前年度と同様の結果が得られることが,現在確かめられつつある. 最近,ミシガン州立大学で,例えば^<112>Sn+^<112>Snと^<124>Sn+^<124>Snを比較する実験が行われている.その結果,(N,Z)のアイソトープの生成量の二反応間の比が,(N,Z)に関して指数関数的な振る舞いをすることが指摘されている.前年度までに行った^<40>Ca+^<40>Caと^<60>Ca+^<60>Caの計算結果について同様の解析を行ったところ,実験で知られているとおり,アイソトープ比の指数関数的振る舞いが得られた.指数関数的振る舞いの傾きパラメータは,状態方程式(対称エネルギー)を反映する.今後は,実験が行われている反応の計算を進め,実験データとの比較することにより,核物質の状態方程式のアイソスピン依存性(対称エネルギーの密度依存性)に関する知見が得られると考えられる.
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