ベクトル型スピン構造、合金系の磁性、有限温度の磁性などで、重要となってくるノンコリニアー磁気構造を扱うことができる第一原理分子動力学法の開発を行った。計算コード開発に関する本年度の成果は、昨年度に行った計算コードの並列化に改良を加えたことと応用物質を拡大するためにフェルミ準位に縮退があるいわゆる金属系の物質にも適用可能なアルゴリズムを計算コードの中に設備したことである。後者は、ノンコリニアー磁性とは直接関係ないが、計算コ-ドの応用面では、大変重要な事項で、これにより磁性状態に関係なく金属的な物質にも計算コードが適用できるようになった。また並列計算コードの開発とあいまって、有用な応用例を提示できる土台が整ってきたということができる。実際の応用として、当初予定していた鉄などの遷移金属磁性への応用ではないが、並列化計算コードを用いて、酸素32分子から構成される液体酸素への応用が進んでいる。磁性分子である酸素を含んでおり、磁気流動相の第一原理分子動力学としては世界初の計算例である。金属系のアルゴリズムでは電子系の非占有状態も同時に扱っているので今後、非磁性物質はもちろんのこと磁性物質の化学反応を含む第一原理分子動力学への応用ができる状態になった。そのほか磁性物質を含む表面系への応用も可能である。磁気励起に関する研究では、強磁性2原子系の原子スピンを歪ませることにより、励起エネルギーを計算するアルゴリズムを開発した。鉄などのいくつかの遷移金属系へ応用し、成果を「微粒子と無機物質クラスターに関する国際会議」(アトランタ、米国)にて発表した。
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