研究概要 |
近地地震のコーダ波は,地殻及び上部マントル構造の短波長の不均質性によって散乱された波群から構成されている.このことに着目して,本研究では,地震波エンベロープの新しい解析手法を開発するとともに,同手法を用いて観測データの解析を行った.主な成果について以下にまとめる. 1.地震波速度が空間的に変化するランダム散乱媒質についての地震波エンベロープの理論的な合成方法を開発した.モンテカルロ法に基づく同手法は,差分近似によって輸送方程式の時間発展を評価することから,複雑な速度構造モデルについても適用が可能である. 2.同手法を用いたシミュレーションによって,深さ方向の地震波速度勾配が地震波エネルギーの時空間分布にあたえる影響を評価するとともに,散乱の非等方性が地震波エンベロープの形状に及ぼす効果について調べた.その結果,地上で観測されるコーダ波エネルギーが地震波速度の正の勾配によって増大されることが明らかになった. 3.新しく開発した地震波エンベロープインバージョン法を1992年Landers地震の余震波形データに適用して,米国南カリフォルニアの地殻及び上部マントル中のS波の内部減衰の大きさと散乱係数の深さ変化を測定した.その結果,S波の減衰が主に内部減衰によることが確かめられた.また,下部地殻については,散乱係数の値が上部地殻のそれと比較して大きいことから,地震波の波長と同程度のスケールをもった比較的に強い不均質性が存在するものと解釈された.
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