研究概要 |
雲仙岳山頂部では,1991年より本科研費代表者らを中心として自然電位のモニタリングが行われており,これまでに,溶岩ドーム出現に先立つ急激な電位の上昇や,その後の周辺部での電位低下が捉えられた.これらの現象は熱水対流系の発達過程を電位変化として捉えたものと解釈される.自然電位の長期にわたる変動を観察することは,1991年の噴火で地表付近にセットされた熱源(マグマ)によって熱水対流系がどのような発達過程を遂げるか(その規模や寿命)を推察する有力な手法である.本年度は昨年度に引き続き,山頂部での自然電位繰り返し測定を行った.その結果,以下のことが明らかになった. (1)噴火直後から見られた溶岩ドームを中心とする高電位異常は平成12年度現在も存在する. このことは,一旦発達した対流系(上昇流)が噴火後も基本的には存続していることを意味する. (2)ドームのごく近傍では,緩やかながら依然として電位の上昇が継続している. (3)一方,ドームの南西部(薊谷の北東部)では,昨年度に引き続き,1997頃から電位が低下傾向を示している.この領域は,噴火初期に急激な電位上昇が観察された場所であり,ドーム貫入によって形成された地下の熱水対流系が,周辺部から衰退を始めていることを示唆するものである. 本研究で得られた成果は,2000年6月に東京で開かれたWestern Pacific Geophysics Meeting(合衆国地球物理学会主催)で発表した. また,観測された電位変化を定量的に考察するため,熱水対流と電位計算を結合させた計算機によるシミュレータを開発した.今後,このシミュレータを使って熱水系の発達過程を考察していく予定である.
|