梅雨や台風によりもたらされる集中豪雨は災害の防止・軽減という点からその予測は重要である。しかし、集中豪雨は短時間で狭い領域に大量の雨をもたらすため既存の観測網では捉えることが難しく、そのためその雲内での水の集中化メカニズムの理解は重要な課題となったままである。本研究では狭い領域をできるだけ密な地上観測網で捉えることが出来るようになることを目指して安価でかつ簡易的な観測機器の開発を目的に簡易雨滴粒径分析計の開発を行い、それを用いて観測研究を行った。 今年度は昨年度開発・製作した簡易雨滴計のプロトタイプを小型・軽量化し、さらに将来の地上気象観測網の構築を念頭に地上気象観測ステーションに組み込むことを試みた。既存の気象観測ステーションと組み合わせることにより雨滴粒径分布のほか気温、湿度、気圧、風向風速、雨量といった一般気象データも同時に観測ができる。また、この雨量計からの電気信号を受けて雨滴粒径分析計の計測を開始・終了できるようにしたことで観測の無人化が可能になった。このシステムにより得られるデータは一般気象データに関してはデータロガーにより10分ごとの測定で約2週間の連続観測が可能である。雨滴粒径データは改良型ではデータの記録方法を2通りにし、1つは昨年度と同様のビデオによる映像の録画、もう1つは赤外線センサーを雨滴が横切る際の電気信号の変化を電圧としてデータロガーに記録する方法である。前者は解析に時間がかかるが実際の粒子を見ることが出来、後者はデータを簡単に処理できるという長所をもっておりこれらの組み合わせにより効率よい観測・解析が出来るようになった。将来的にはこのシステムを狭い領域で多地点に設置することで、集中豪雨における雨滴形成(降雨形成)の平面的な観測が可能になる。さらにレーダー等のリモートセンシングと組み合わせることで立体的な構造の理解に役立つであろうと期待される。 本研究で開発した簡易雨滴粒径分析計を用いて昨年秋に山口を直撃した台風18号からの降水を観測した。また、鳥取大学乾燥地研究センターにおいて冬季日本海側に発達する雪雲からの降水、さらに山口大学において梅雨前線に伴う降水システムからの降水の観測を行った。台風18号に関する成果については第13回国際雲・降水学会において発表された。これらの観測はそれぞれ雲形成メカニズムの異なる雲からの降水の観測で、これらの観測結果を比較すると、一般に雨滴粒径分布はN=N_0exp(-λD)で表されるが、台風の場合は大量の雨をもたらす割に分布の傾きλがそれほど変化しないことがわかり、前線や低気圧に伴う降水とは異なる性質を持っていることが明らかになった。レーダーデータ等との関連を詳しく調べる必要があるが、非常に興味深い結果であり、本研究で開発された簡易雨滴粒径分析計が十分に利用可能であることが確かめられた。
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