研究概要 |
本研究では、山口県水産研究センター調査船「くろしお」が1991年から1993年までに対馬海峡で取得したADCP/CTDデータを用い、対馬海峡を通過する淡水量、水温輸送量を明らかにした。ADCPデータによって、対馬海峡をほぼ横断する断面での流速分布を、またCTDデータによって、海峡での淡水存在量をグリッドごとに算出し、海峡での断面分布を得る。そして両者を掛けることによって、海峡における淡水フラックスを算出する。水温データを用いて、同様の手法でその輸送量も見積もった。 山口県水産研究センターが実施したADCP観測は、片道一回の横断観測であり、このデータは潮流成分を含む。従って、上述のような解析を行う場合は、ADCPデータから潮流成分を除去し、海峡における残差流の鉛直断面分布を求める必要がある。このためには、少なくとも4大分潮流の潮流調和定数の断面分布を対馬海峡において求め、ADCP観測データに含まれる潮流成分を推算し、これを除去しなければならない。本研究では1998年から2000年まで、別途実施したADCP観測データを用いて、調和定数の推算を行った。 流量は年平均2.4Sv、年変動幅0.7Svとなった。これは、既往の諸研究の値とほぼ一致する。また、淡水輸送量の年平均値は、32,000m^3/sとなった。これは、中国大陸から流出する全河川流量の年平均値33,000m^3/sとほぼ一致し、両者のバランスを伺わせる結果になった。本研究を遂行する基礎データとなる対馬暖流の流路分布についてはJ.Physical Oceanography誌に掲載済み、また、観測結果は現在J.Geophysical Research誌に投稿中である。
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