研究概要 |
飛騨外縁帯は,大陸地殻からなる飛騨帯と,付加体からなる美濃帯の間に狭長に分布する構造帯であり,西南日本のテクトニクスを考察する上で,きわめて重要な地帯である.昨年度までの研究により,飛騨外縁帯の古生界整然相には,高山北東方型・福地型の2つのタイプの層序が識別でき,それぞれ,別々の古生物地理区で形成されたことが判明した.さらに,岐阜県高山市から上宝村福地にわたる範囲の綿密な地質調査の結果,高山北東方型・福地型両層序は,白亜系手取層群を挟んで明瞭に分布域を分かち,福地型層序と手取層群は,顕著な左ずれのカタクレーサイト帯を介して接することが判明した.今年度は,飛騨外縁帯の層序・構造学的研究とともに,美濃帯北縁部の構造解析も併せて行った.飛騨外縁帯については,岩相層序に曖昧な点が多かった福地型層序の上部古生界について,詳細な野外地質調査を元に層序の再検討を行った.その結果,福地型層序は,下位より,デボン系福地層(石灰岩相),石炭系一ノ谷層(石灰岩相),ペルム系水屋が谷層(砕屑岩相),ペルム系空山層(火山砕屑岩相)の4層から構成され,それらの上に時代未詳の柏当層(苦鉄質岩類)が衝上していることが明らかとなった.美濃帯北縁部については,岐阜県丹生川村から上宝村新穂高にかけて顕著なカタクレーサイト帯を見いだし,その運動像解析の結果,カタクレーサイト帯に沿って中角から低角左ずれの構造運動があったことが判明した.このカタクレーサイト帯は白亜紀最末期の火山岩類に不整合で覆われるため,その活動は白亜期末には終息していた.美濃帯北縁部と飛騨外縁帯の左ずれカタクレーサイトは同時期に形成された可能性が高く,このことは,白亜紀の左ずれテクトニクスによって飛騨外縁帯が形成された(即ち,西南日本内帯の原型が完成した)ことを強く示唆する.
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