研究概要 |
白亜紀「中期」にアプチアン期〜チューロニアン期においては,全世界的に海洋無(貧)酸素事変が確認されるなど,古海洋環境について地球化学的な立場から多くの研究が行われている.北海道中軸部に分布する白亜系蝦夷累層群における研究代表者の放散虫化石層序学的研究の結果,海洋中の無酸素水塊の消長と放散虫の多様性の変遷との間に関係が存在すると予察されてきた.これらの研究をふまえて,本研究では北海道の蝦夷累層群において放散虫多様性の変遷の詳細を明らかにすること,海洋中の放散虫生物量を推定し白亜紀の海洋一次生産の変動を把握すること,さらには地球化学的な研究の成果と比較して放散虫群集の変遷の意味を明らかにすることを目的としている.今年度は本研究の1年度目にあたり,このうち蝦夷累層群の基礎的な地質調査,放散虫生物量の推定,セノマニアン期〜チューロニアン期の放散虫多様性の変遷について研究をおこない,以下のことがらが新たに明らかになってきた.まず放散虫生物量に関しては,アルビアン期中期以前においては放散虫生物量が小さく,後期以降セノマニアン期全般にわたって大きい.チューロニアン期前期においてはセノマニアン期・チューロニアン期境界直上の層準で大きいが,それ以外では小さく,中期以降大きくなる.この結果を海洋無酸素事変の発生と関連させて比較してみると,発生により無(貧)酸素水塊の拡大につれて生物量が小さくなり,放散虫の生息場の縮小が示唆される.また放散虫の多様性について,期を3分割して全種数の絶滅・出現をカウントした検討した結果,セノマニアン期・チューロニアン期境界で種の多様性が約40%減少していることがわかった.またチューロニアン期中期で約30%増大していることも計算され,これらの時期以外が約10%程度であることから見ても変化が大きく,海洋無酸素事変との関係が示唆される.
|