研究概要 |
北海道日高帯の幌満岩体とニカンベツ岩体は,連続する温度勾配を持つ一連のマントル物質だったものが地表に露出する際に分断されたものであることが,温度構造の解析,全岩および鉱物の化学組成の検討,岩石組織の解析から判明した.これらは最終上昇履歴で完全にサブ・ソリダス条件だった幌満岩体下部帯,局部的に部分溶融が開始した幌満岩体上部帯,1.0Gpa付近でソリダスを切ったため斜長石レルゾライト領域で普遍的に部分溶融が起こっていたニカンベツ岩体の3つのユニットに区分できる.他の岩石に対する斜長石レルゾライトの占める割合が幌満岩体下部帯35%→上部帯69%→ニカンベツ岩体95%と増加する.幌満岩体下部帯と上部帯の違いは,上昇前はほぼ同じ岩石比率であった同様のマントル物質が最終上昇中に高温条件だった上部帯で部分溶融ならびにサブ・ソリダス反応が促進したために,斜長石を含むレルゾライトの占める割合が増加したことで説明可能である.一方,ニカンベツ岩体では,他の岩石種に比べると優位に斜長石レルゾライトの占める割合が高いこと,その全岩化学組成が非常に均質なことより幌満岩体より始源的な性質を多く有したマントル物質であったと考えられる.普遍的に部分溶融を起こしていたニカンベツ岩体では,10〜15cm^3中での全岩化学組成は均質であるが数10〜数100μmレベルでは不均質で,例えば斜長石にOscillatoryな累帯構造が残留している.この事実より部分溶融マントルでは,数mm〜数cmのオーダーで局部的に異なった化学組成のメルトが段階的に発生・移動していた可能性が強く示唆される.なお,発生メルトの移動形態として粒界移動と通路介在移動の2形態が確認され,母岩の温度上昇に伴って通路介在移動が優勢になり,より効率的に母岩からのメルト分離・移動が起こっていたことがわかった.
|