研究概要 |
今年度は,対象分子をアセチレンにしぼり以下の結果を得た。 [1]アセチレンの赤外-紫外二重共鳴DF(IR-UV-DF)分光法: 高分解能IR-UV-DF分光法を用いて、これまで観測されていない基底X状態のungerade振動準位を10000cm^<-1>以下の領域に117個観測した。これらを含めた全287個の振動準位を再現する、非調和共鳴相互作用を考慮した有効ハミルトニアンを構築し、振動エネルギー再分配(IVR)の経路、時間スケールを計算した。 [2]アセチレンのIR-UV二重共鳴分光: アセチレンの電子励起状態(A^1Au)状態のungerade振動準位をIR-UV二重共鳴分光法により観測し,nv_3′+v_4′およびnv_3′+v_6′(n=2,3)振動準位の回転振動構造を初めて明らかにした。その結果、nv_3′+v_4′とnv_3′+v_6′準位は互いに強くコリオリ相互作用していることが明らかとなった。また、面内v_6′振動をもつnv_3′+v_6′準位が近在する三重項状態を強く相互作用するのに対して,面外v_4′振動を持つnv_3′+v_4′準位はほとんど相互作用しないことが明らかとなった。 [3]アセチレンの振動力場展開ハミルトニアンの構築: 前出の高分解能IR-UV-DF分光法,および高分解能UV-DF分光法をアセチレンに適用して得られた準位を含めた全100個(エネルギー領域E<11000cm^<-1>)の変角振動準位を再現する振動力場展開ハミルトニアンの構築に成功した。このハミルトニアンは、前述の有効ハミルトニアンより正確な波動関数が描ける。両者の波動関数形状を比較した結果、9000cm^<-1>付近から有効ハミルトニアンでは省略されているポリアッド間相互作用による相違が顕著となった。つまり、このような高励起アセチレンにおける高速振動ダイナミクスにおいて、ポリアッド間相互作用による効果を取りこむ必要性が示された。
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