研究概要 |
本研究は、従来の炭素π電子系を13族,14族,15族典型元素によって連結することにより,概念的に新しいπ電子系を創成することを主目的とする.具体的には,炭素π電子系としてアントラセン骨格に注目し,同一元素上に三つのアントリル基をもつ13族,14族,15族有機典型元素化合物を設計し,その合成と中心元素の配位数と物性との相関関係の系統的な解明について検討を行う.本年度は,中心元素としてホウ素およびケイ素をもつ系について検討した. 1.トリアントリルボラン誘導体の合成と物性 13族類縁体であるトリアントリルボランを基本骨格とする種々の含ホウ素パイ電子系化合物の合成とその諸物性について検討した.アリール金属化合物とBF_3との段階的な反応により一連のトリアントリルボラン誘導体の合成に成功した.さらに,これらの化合物が,ホウ素の空のp軌道を介したパイ共役の拡張により,紫外可視吸収スペクトルにおける長波長吸収や低い還元電位などの特異な物性を示すことを明らかにした. 2.トリアントリルシランからトリアントリルシリカートへの光物性変化 14族類縁体であるトリアントリルフルオロシランの合成は既に報告している.トリアントリルフルオロシランから対応するジフルオロシリカートへの配位数変化に伴う光物性変化について検討した.中心ケイ素原子の四配位四面体構造から五配位三方両錘型構造への変化に伴い、アントリル基間の距離が増大し,その結果,蛍光の量子収率の約20倍もの増大など,光物性が大きく変化することを明らかにした.この変化は他のアニオン種との反応では見られず,トリアントリルフルオロシランはフッ化物イオンの選択的蛍光センサーとして機能するといえる.
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