研究概要 |
ビスマスは第15族に属し,自然界で安定に存在し得る最も高原子量の元素である。3価有機ビスマスであるトリアリールビスムタンの構造的特徴は,ビスマス原子周りの結合角が軌道の混成を伴わないためにほぼ90°であること,ビスマス-炭素結合距離が炭素-炭素結合距離に比べて長いことの2点に集約される。我々は,トリアリールビスムタンのこのような結合特性を活かした新規電子系の構築を目指して研究を行っている。しかし,これまでに合成されているトリアリールビスムタンのほとんどが無置換,ジメチルアミノ基のようなπ電子供与性基,あるいはトリフルオロメチル基のようなσ電子求引性基を有するもので,シアノ基のようなπ電子受容性基を持つ例は知られていなかった。その主たる原因は,π電子受容性基を有するトリアリールビスムタンの一般合成法が確立できていなかったことにある。我々は,今回,ヨードアレーンの臭化イソプロピルマグネシウム,あるいはフェニルリチウムによるハロゲン-メタル交換反応を用いたπ電子受容性基を有するトリアリールビスムタンの一般合成法を確立することができた。この方法を用いることで,これまでに合成できなかったニトロ基,ホルミル基,シアノ基,エステル基のようなπ電子受容性基を有する種々のトリアリールビスムタンが合成可能になった。 さらに,我々は,これまでに例のないビスマス原子を不斉中心とする光学活性なトリアリールビスムタンの合成,単離,ならびにX線結晶構造解析に成功した。この化合物の合成は,光学活性なヨードビスムタンのアリールGrignard試薬による置換反応を用いて行っているが,Grignard試薬によるビスマス原子上での置換反応が立体反転で進行することも初めて明らかにした。
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