亜硝酸還元酵素(NiR)は亜硝酸イオンをアンモニアに六電子還元する酵素で、植物が窒素源として取り込んだ硝酸イオンをアミノ酸にまで還元同化するのに必須の酵素の一つである。NiR cDNAのアンチセンス鎖を導入してNiR酵素活性を野生株の約5%にまで抑制したトランスジェニックタバコクローン271について硝酸還元能を^<15>Nを用いて調査した。亜硝酸還元能の測定はケールダール法により還元態窒素量を、同位体質量分析計により還元態窒素中に含まれる安定同位体比を測定し、両者の値から算出した。その結果、クローン271には野生株とほぼ同レベルの硝酸還元能が有ることが明らかになった。そこで、本研究ではクローン271において観察された硝酸還元能は何によるものなのか、すなわち、NiRとは異なる亜硝酸を還元する新規酵素を明らかにすることを目的として研究を行った。 まず、葉および根についてNiR活性の測定を行った。クローン271の葉では野生株の葉で観察されるNiRの5%以下に減少していたが、クローン271の根では野生株の根で観察されるNiR活性とほぼ同レベルの活性値が観察された。そこで、硝酸還元能の測定を切り取り葉を用いて行った。約9週間生育させたクローン271および野生株から切り取った葉を1mM、20mM 50mM K15NO3溶液に浸して8時間おいた後、葉を洗浄、凍結乾燥、粉砕した後、硝酸還元能を測定した。その結果、切り取り用においてもクローン271において野生株とほぼ同レベルの硝酸還元能が観察された。 次に、NiR以外に亜硝酸を還元する酵素が存在するか否かを検証するために、クローン271および野生株から抽出した粗抽出液をNativeゲルを用いた二次元電気泳動により分離、NiRの活性染色を行った。その結果、野生株では高い活性を持った2つのスポットと弱い活性を持った2つ以上のスポットが観察されたが、クローン271では活性が弱いスポットのみが観察された。現在これらのスポットのアミノ酸配列を解析中である。
|