研究概要 |
1.ICERトランスジェニックマウスのSCNにおけるCREを介した遺伝子の転写調節の解明 β-actinをプロモーター領域につないで、全身の組織でICER遺伝子が過剰発現するように設定したトランスジェニックマウスを用い、概日時計の中枢であるSCNを含む組織標本を作成して免疫組織化学法とIn situ hybridizationを行った.CRE(cAMP responsive element)に結合して遺伝子の発現を調節する転写因子であるICERと活性型であるリン酸化CREB、またCREBについてもタンパクの発現を調べた.その結果、トランスジェニックマウスでは、SCNでのICERタンパクとmRNAの発現にはワイルドタイプのマウスとの大きな相違はみられず、ICER遺伝子が神経細胞特異的に過剩発現していないためと推測された.さらに、ワイルドタイプのマウスでSCNでのCREBとリン酸化CREBの発現が概日時計機構によって制御されているかどうかについて解析を行った結果、両タンパクの発現は明暗周期に同調すること、恒暗条件ではリン酸化CREBのみがサーカディアンリズムを示すことが明らかとなった.このことから、CREBのリン酸化がSCNで概日時計の支配を受けCREを介した遺伝子の転写調節を制御していることが示唆された. 2.マウスSCNにおけるリン酸化CREBと時計遺伝子との関係 時計遺伝子であるperiodの発現調節には、E-boxを介したCLOCK-BMAL1の2量体が重要な働きを行っていると報告されてきたが、E-boxのみがperiodの発現が制御しているという転写調節機構だけでは説明しきれない事実もでてきている.マウスperiod 1は、プロモーター領域に5つのE-boxと4つのCREをもち、リン酸化CREBやICERタンパクがCREに結合してperiod 1遺伝子の転写調節を行っている可能性がある.また、リン酸化CREB/CREの転写調節がc-fosやperiod遺伝子の発現を誘発して概日時計が光に同調すると考えられている.マウスに光パルスを与えてSCNのICER,c-fos,period mRNAおよびCREB,リン酸化CREBタンパクの発現を調べ、時計関連遺伝子とCREB、リン酸化CREBとの関わりを調べた.その結果、主観的夜に与えた30分の光パルスではICER,c-fos,period mRNAの発現の誘発がみられ、10分の光パルスでは光を与えていない対照群に比べてリン酸化CREBの発現に有意な誘発はみられなかった.このことから、10分の光パルスでは急激なリン酸化CREBの発現が元のレベルに戻っているか、CREBのリン酸化に必要な光強度は活動リズムの位相変化に対する光強度よりも小さく、光強度が高い場合は逆にCREBのリン酸化を抑制するという、外界の光の環境にあわせCREBのリン酸化が概日時計機構の同調機構を変化させる役割を果たしていることが考えられた.以上の実験結果については、現在投稿準備中である.
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