研究概要 |
沿岸海水域および湖沼から採集したサンプルを多数調査したところ、約60属80種の微細鞭毛虫が確認された。このほとんどは本邦未報告のものであった。さらに同定不能の微細鞭毛虫が数十種確認されたが(特に淡水域に多い)、このうち多くが未記載種であると思われる。 沿岸海水域ではボド類(Bodo,Rhynchomonasなど)、ビコソエカ類(Cafeteria,Pseudobodo)、Wobblia、襟鞭毛虫類(Salpingoecaなど)、Goniomonas、無色黄金色藻類(Spumella,Oikomonas,Paraphysomonas)の出現頻度が高かった。淡水域でも前記のグループが多く認められたが、そのうちビコソエカ類(Bicosoecaのみ)やwobbliaが少なく、かわりにケルコモナス類(Cerecomonas,Heteromita)および無色ユーグレナ類(Petalomonas,Entosiphonなど)が高頻度で出現することが確認された。上記の多くの種がバクテリ食であり、生態系を考える上で重要な構成要素となっていると思われる。 多くの種がバクテリアとの混合培養によって生育可能であったが、一部の種(Leucocryptos、無色ユーグレナ類の大部分など)は増殖せず、補食時の観察結果や出現状況(微細藻のブルーム時に多い)から、真核生物などの大型の餌が必要だと考えられる。さらに現在これら鞭毛虫の微細構造および18rDNA塩基配列を調査中であるが、真核生物全体にわたるほど系統的に非常に多様であり、基本的な分類体系の大幅な変更が必要となるような結果が得られつつある。一例として沿岸域で普遍的な鞭毛虫のなかに未記載の生物があり、新属Wobbliaとして記載した(Moriya et al.2000)。この生物はストラメノパイルに含まれるが、既知のどのグループにも属さない新しい系統群であることが判明した。 近年海洋の真核微生物における未知の多様性が注目されるようになったが(Lopez-Garcia et al.2001)、この大部分は鞭毛虫によるものと思われる。この多様性の解明には上記報告にある分子系統学的な調査と同時に、基礎的な形態・分類学的な研究が必要であり、本研究分野のさらなる重要性を示している。
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