研究概要 |
本研究では、広義のシオガマギク(ゴマノハグサ科)の集団間レベルの分子系統地理学的解析を行い、日本の固有変種とされるトモエシオガマ及びミカワシオガマの起源を明らかにすることを目的とした。また集団間の遺伝的な関係を明らかにするうえでAFLP法という新しい手法の有効性について検討した。(1)葉緑体DNAを用いた解析-----36集団151個体のシオガマギクを用いて、葉緑体DNAのtrnL(UAA)5′exon-trnF(GAA)の遺伝子間領域約1000bpのシーケンスを決定した。それらをアライメントし、塩基置換やGapによってタイピングを行った結果、合計9種類のハプロタイプが認識された。次にハプロタイプ間の系統解析を行った結果、広域分布する系統I、本州中部と四国の集団を含む比較的分布のせまい系統IIの2つの系統が存在していることが明らかとなった。系統Iは日本以外にも朝鮮半島、サハリン、千島列島に広く分布し、その中にミカワシオガマと同定される集団のハプロタイプが単系統にまとまった。また系統IIの本州中部高山帯の4集団のうち蝶ケ岳と三伏峠の集団は明らかにトモエシオガマと同定されるものであった。これらの結果は、広域分布する系統Iからミカワシオガマが派生し、分布域のせまい系統IIからトモエシオガマが派生してきたことを示唆している。(2)AFLP解析-----予備的な解析として、22集団24個体のシオガマギクを用いて、3ペアのプライマーセット(MseI-CAA/EcoRI-ACT,MseI-CAG/EcoRI-AAC,MseI-CTC/EcoRI-AAG)でAFLPの検出を試みた。その結果、合計59本のバンドが検出され、そのうち38本のバンドが多型的であった。バンドの組み合わせからすべての個体を区別することが可能であった。バンドの有無をもとにUPGMA法によりクラスター解析を行った結果、それは葉緑体DNAの結果とはまったく一致しない結果となった。この不一致は、活発なgene flowに起因しているのかもしれないが、まだ予備的な解析結果であるので、今後もう少し解析個体数やプライマーペアの数を増やして検討する必要がある。
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