研究概要 |
転位の発生ならびに運動の力学的条件を原子レベルから明らかにするため,[001]方向に引張を受けるニッケル微小単結晶の分子動力学シミュレーションを行い,表面からの部分転位の発生過程,ならびに結晶内部への伝ぱ過程を詳細に観察した.さらに,部分転位の発生・運動時に生じた結晶格子の局所的な不安定変形に着目し,その開始条件を結晶の変形抵抗を表す弾性剛性係数B_<IJ>の正値性に基づいて評価することを検討した.その結果,転位の発生および運動時のメカニズムについて以下のような結果を得た.(1)部分転位が発生する領域では,局所の結晶格子が引張軸垂直方向([100],[010]方向)の変形の釣り合いを失って急激に崩壊し,変形が集中する前駆的な不安定現象(「第一の不安定」)を生じていた.(2)部分転位の発生・伝ぱは,(1)の変形集中領域内の1つのすべり面間においてfcc原始単位格子が部分転位発生方向へ連鎖的にせん断崩壊する「第二の不安定」によりもたらされていた.(3)局所格子の垂直方向崩壊の「第一の不安定」開始時には,その領域の弾性剛性係数の行列式B_<IJ>が負となる不安定状態となっていた.この不安定は,垂直方向の変形の釣合いを表す主小行列式B_<11>B_<22>-B_<12>B_<21>が負となることによりもたらされていた.(4)部分転位の発生の「第二の不安定」開始時には,局所のfcc原始単位格子のせん断弾性剛性係数B_<55>^<int>が負となった集団的な不安定領域がすべり面上に現れた.このせん断不安定領域は部分転位の前方に位置し,すべり面上の隣接格子へ伝ぱすると部分転位が移動した.
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