研究概要 |
本研究は,積層化された皮膜に対しX線回折法を用いることにより,各層の結晶状態と残留応力を非破壊的に評価することを目的としている.試料としてはPVD法の一種であるアーク放電方式イオンプレーティング(AIP)法によりガラス基板上にTiN皮膜を形成し,その上層にスパッタリング法によってCu膜を形成したCu/TiN二層膜を用いた.この二層膜における両層の結晶状態と残留応力状態を実験的に検討した. これまでに得られた結果から,ガラス基板上にAIP法により形成されたTiN皮膜は[111]軸が基板表面法線方向に優先配向する{111}配向膜となることがわかっている.そこで,スパッタリング法によってガラス基板上に作製したCu膜についてX線回折法により結晶状態を検討した.その結果,Cu膜からは強いCu111および222回折線と弱いCu200回折線が得られることからCu膜は主に{111}配向の結晶で構成されるが一部にランダムな結晶も存在していることがわかる.また,Cu膜には約400MPaの引張残留応力が存在していた.次に,Cu/TiN二層膜における上層の結晶状態を検討した.その結果,上層のCu薄膜からはCu111および222回折線のピークしか得られておらず,下層の影響を受けて上層の結晶配向性が良くなることがわかった.また,残留応力については二層膜では下層TiN膜の存在による上層Cu膜の引張残留応力の低減が確認できた. さらに,Cu/TiN二層膜に熱サイクルを加えた場合の上層Cu膜の残留応力変化について実験的に検討した.しかし,残留応力変化に明確な傾向を見出すことができず,詳細の解明は今後の研究課題である.
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