研究概要 |
イオン性物質の多機能材料化に関する一連の研究をとおして,イオン対とアルキル鎖だけから成る,構造的に極めて単純な両親媒性物質が優れた液晶性を発現することを見いだした。この新しいイオン性液晶は層状の液晶相を示し,巨視的にみればイオン層とアルキル層が規則的にスタッキングした集積型構造を示す。各イオン層は,アルキル層によって遮断された原子レベルの二次元的な空間を有する。この特異的な空間において,電気双極子であるイオン対を規則的に配列させることができれば,永久電気分極(自発分極,Ps)をもつ二次元イオン層から成る自己組織集積体を構築することが可能となる。このような発想に基づいてイオン性液晶の超格子構造化(多層薄膜化)を試み,光第二高調波発生(SHG)測定から正電荷を帯びたリン原子と対イオンである塩素原子から成るホスホニウム塩が,マルチラメラ組織体の各イオン層内で非中心対称性の二次元超格子構造体(Psを有する原子層)を自発形成することを見いだした。チタン酸バリウムのような一般的な無機系強誘電性結晶と同様に,二次元的な原子層面内で正負イオンの自発変位(強誘電的配置)が起こり,非中心対称構造が誘起される。その結果,各イオン層はPsをもつことになる。興味深い点は,各イオン層のPsが異方的に配列することにより,薄膜全体にも永久電気分極が発生している点である。理論計算によって,Psの発生はP原子の特異的な電子構造に由来することがわかった。P原子の空の3d軌道が弱いP-Cl結合の形成に寄与できるため,このような極性構造が発現するようである。ホスホニウム液晶は一般溶媒に対する優れた溶解性と双極子イオンに基づく機能発現という有機的特徴と無機的性質を合わせもつ物質であるため,新しい機能材料として液晶デバイスを含む光・電子デバイスへの応用展開が期待できる。
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